夏になって…

 ボンバの仕事は池田さんのことがあったので気楽だった。ジャコウは多化性だから失敗しても年内にやり直せるし、装置はそのまま流用できるのだから…。しかしそんなに案ずることもなく、しっかりとしたデータが揃った。あとはヤツが書くだけである。
 ボスが「日本語で書け」と言ったものだから、ボンバは漢字の特訓を始めた。顔を合わせると、「アッシー!さんの『アシ』は『レッグ』ですか?」とか言う。「違うよ!『ブリッジ』だよ」と言うと、「あぁ、『ブリッジ』の『アシ』ですね」。テレビにボビー・オロゴンが出てくると、こんな問答があったことを思い出させられてしまう。顔はボンバの方が怖くなかったけど…。
 そんな毎日の中、学部生のM君の卒論のテーマが決まった。「夜間の蛾の動態」。トラップをかけてガを集め、どんな種がどんな時間帯によく活動しているかを探るのだという。ボスの発案によるトラップは「電撃ショック式」で、ボードの両面にアルミ・フォイルを貼り、それを迷路状に切ってから対角線上に電極を取り付けたものを、1つのトラップに3枚、120度の角度で据え付け、真ん中にブラックライトを設置するというものだった。さらに下にはトタン製の漏斗を置き、その口に四塩化炭素をしみこませたガーゼ入りのビニール袋をくくりつけると、2時間ごとに回収に行けば済むと言うのである。後年、コンビニの入り口で、まさにこれと同じ仕掛けのものを見たとき、ボスは何でパテント申請をしなったのかと思ったものだが…。
 とにかく、空いている部屋での工作作業が始まった。ボードに薄く接着剤を延ばしてしわにならないようにフォイルを貼り、定規とカッターで切っていく。5基分15枚を作り上げ、今度はトタンを丸めて漏斗作りである。ねじり鉢巻で大汗をかきながら、5日ほどで作業を終えた。通電テストでは結果は上々で、早速に菅平行きとなった。
 関越の通じていない頃だから、R17からR18に入り、碓氷峠越えで6時間余り、何とか午後の早い時間に現地に着いた。早速に設置の準備である。実験所の北西に広がる緩斜面の半径50mの円周上に5つ置くのだという。円はすぐに描けた。ここで困ったことが起きた。各トラップ間の距離はいくらなのか?ということである。中心角は72度、つまり頂角が72度で、等辺が50mである二等辺三角形の底辺の長さを求めなければならないのだ。ボスは「しまったなぁ。6つにすればよかったのか…」とボヤくが、とにかくトラップは5つしかない。対応策を考えるために小休止となった。
 お茶を飲みながら手元のノートに正五角形を描いてみて閃いた。ゴチョゴチョと計算をしてその経過をYさんに示した。「おぅ!これでいいかもな」とYさんが言うのに、Tさんが口を挟んだ。「ハッシー!の計算が当てになるんですか?」。
 そう、この頃Tさんのボクへの当たりがきつかったのだ。訳は程なく分かった。夏前にボスが仕事で九州へ行き、戻ってきてから研究室で、「君たちこれ何て読む?」と、『彼杵』を示したそうなのだ。誰も読めなかったときにYさんが、「ハッシー!ならクイズ・フリークだから読めるかもな…」と言うと、Tさんが「ヤツにだって無理ですよ」と言ったらしい。そして、その日の午後にボクが行くと、Tさんが「おい!これ何て読むんだ?」って聞いてきて、「『ソノギ』で長崎の地名でしょ」とあっさりと答えたことが、「ボスの次に物知り」と謳われたTさんのプライドをいたく傷つけたのだという。東京へ戻ってきたある日、例のごとくTさんとしこたま飲んだ翌日、ボクが出て行くとTさんが二日酔いで沈没しているとのこと。技官のSさんが、「昨日大丈夫だった?」と尋ねるものだから、「ええ、いつもと一緒でしたけど…」と言うと、「実はね…」と教えてくれたのだった。確かに飲んでいるときの話がやけに説教めいてきていたし、たまに麻雀をすると強い牌を打ってきたりと、言われてみると思い当たる節はあった。でも鈍感なボクは気づかなかった。説教はボクのために言ってくれてるんだと考えていたし、麻雀は打ち方を変えたんだと思っていたから…。
 まぁ、とにかくボクの計算でやってみようということになって、ネズミ用のトラップにけつまずいて転んだりしながら巻尺を持って走った。5回めの巻尺がピッタリと出発地点に戻った。
 Yさんの高笑いが響いた。「T~!、うまくいっちゃったよぉ」。
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by luehdorf | 2008-03-29 23:30 | チョウなど | Trackback | Comments(16)
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Commented by カトカラおんつぁん at 2008-04-02 22:36 x
そのぎ…は、私は読めませんでした。
ヒメギフ間近の今日この頃ですが、マイマイ採集に出かけています。宮城でもここ県南ではコアオマイマイしか居ないのですが、しばらくぶりの朽ち木崩しにも体力が続かず、すぐにギブアップしています。出てきたマイマイの前胸のブルーには感動しています。
Commented by pulala-2 at 2008-04-03 21:23
luehdorfさん、こんばんわ。
ここにおじゃますると、最近とみにぼんやりしてきた脳が
キリリと引き締まるような気がします(^-^)
計算がバッチリ!でよかったですね。

そのぎ・・は私も読めませんでした。
北海道にも読み難い地名が多くありますが、石狩市に
『花畔』 というところがありますが、さて何と読むでしょう?
花という字を使っているのに美しいとはいえない読み方なんですよ。
『ばんなぐろ』と読むんです。響きがあまり綺麗じゃないでしょう。
Commented by luehdorf at 2008-04-03 22:39 x
カトカラおんつぁん様
「オサ掘り」、昔、つき合わされました。若いときでもとても大変だった記憶があります。
まだ朽木崩しをおやりになるとは…。ナタやバールをお持ちになるんでしょう?
そうか、スポーツクラブ(通ってませんけど…)でバーベルの上げ下げなんかやるよりもいいかも知れない。次の冬の課題として、「いただき」です(爆)。
Commented by luehdorf at 2008-04-03 22:45 x
pulala-2様
北海道の地名は難しいですよ!
実は、埼玉・川越を流れる川に「越辺川」っていうのがありまして、これ「オッペガワ」と読むんです。
ボクはアイヌ語由来と見てるんですが、違いますかねぇ…。

ボクの駄文でリフレッシュしていただけるなんて…。過分なお褒めの言葉ありがたく頂戴します。
Commented by nomusan at 2008-04-04 05:19 x
う~ん、ちょこちょこと覗いていたつもりなのにすっかり出遅れてしまった。しかも九州の地名が出てるのに(爆)。
「彼杵」は地元の人でないと九州人でも読めない人多いと思いますよ。ただ、蝶屋さんにとっては耳に馴染みがあるかも?ですね。私もラベル作るときに正しく憶えました(笑)。
Commented by luehdorf at 2008-04-04 08:46 x
nomusann様
何の何の、当方こそ頭に「気まぐれ」をつけなきゃいけないかな?と思っている次第ですので…。
何せ、書きかけで誤ってログオフすること数回ですから…。懲りずにおつきあいください。
ボスはこの仕事のときにカミキリ採りをやってきたらしく、出てきたのが「スネケブカヒロコバネカミキリ」。言い得て妙の和名とはいえ、小さなカミキリに似合わぬ「ゴツゴツ」とした名前に笑ってしまいました。
Commented by nomusan at 2008-04-04 23:34 x
今宵は定例会ですよね。今日の一品は何だったのなかぁ~(笑)。

私ね、一回夜間の灯火採集ってやってみたいのですよ。採集って言っても採らなくてもいいんですが、漆黒の山の中で灯りたいて、虫が集まってくるのをちびりちびり呑みながら待つってのを・・・(笑)。
Commented by luehdorf at 2008-04-04 23:51 x
今帰ってきて、酔い覚ましのアイスクリームをなめています(爆)。
今日の一品、やっぱり「しめ鯖」かな?赤身を残した締め加減最高でした。食感が「もちっ」、なんですよ。
あと、マグロのカマ焼きがあったんですが、タッチの差でSさんに持っていかれ、「残念!」。遠火の強火で焼いたのはホントうまそうでした。(クソッ! あと1分だったのに…)
Commented by カトカラおんつぁん at 2008-04-05 18:38 x
今日の一品の話題で一言。しめ鯖も良いですが、私はコハダも好きです。大きいコハダじゃなくって小さいシンコと呼ばれるのが好みですが、寿司屋さんでもなかなか無いんですよね。
Commented by luehdorf at 2008-04-06 00:52 x
カトカラおんつぁん様
シンコ、夏になったら…。
大将が不調で閉めてしまった寿司屋があるのですが、あるときシンコばかり14貫。最後には「出前用にちょっととっときたいんだ…」って言われました。うまかったなぁ~。
この寿司屋は青モノの締め方が上手でお気に入りだったんです。
大将、今どうしてるかなぁ…?
Commented by カトカラおんつぁん at 2008-04-09 18:16 x
まったく、虫の話で盛り上げるはずなのに、食い物で熱くなるんじゃダメですね。仙台あたりの寿司屋では、しんこの他にも、あなごの一本づけと称して、ミニ七輪で焼いて出してくれます。これがまあ、さっぱりしていて抜群です。青物は体にもいいし、おいしいものを食べられるうちが華でしょう。いずれ何も食べちゃダメと言われる日が近づいてきてるんですから。
Commented by luehdorf at 2008-04-10 11:18 x
カトカラおんつぁん様
アナゴの一本づけ、蒸したのを焼いてくれるんでしょうか?開いてそのまま焼くんでしょうか? うまそうですね。
松島や塩釜あたりですと冬に結構釣れるみたいで、小牛田の父親が一時期ハマっておりました。コンビニの袋に2袋くらい釣ってきて、さばいて冷凍にしておくんです。(そのための冷凍庫を買ったというんですから…)帰郷すると、朝めしに「アナゴ丼」って、どんな食生活なんだか…(爆)。

県南ではそろそろヒメギフが出ているのでは?
Commented by カトカラおんつぁん at 2008-04-10 18:26 x
ヒメギフですが、私はまだ見ていませんが、仙台の方のブログでは、仙台市でもう出ているようです。宮城では、まだまだ新産地が見つかって当然ですが、県南でもあちこちで記録されているようです。福島県での記録を出したくて、宮城に近い場所を探してみようかと狙っています。とりあえず、摺上川上流域の支流を攻めてみたいと思っているところです。見つけたら書きます。
Commented by luehdorf at 2008-04-11 08:48 x
カトカラおんつぁん様
福島姫、いいですねぇ。
朗報をお待ちいたします。
ボクは群馬県もかつて記録のあった沼田やいま厳重に保護されている赤城山以外に、長野県境をちょっと越えた旧松井田町や下仁田、そして南牧辺りで見つけられるんじゃないかと思っているんですが…。
今度ロケーションして見ます。
Commented by カトカラおんつぁん at 2008-04-13 18:51 x
行ってきました。摺上ダムの上流の中津川の林道をひたすら歩きで奥までつめてみました。路上には、雪も残っているところや雪解けの水が川のように流れているところもありで、さんざん苦労しながらヒメギフが飛び出すのを待っていたのですが、この日は気温が低く、肌寒いうえに曇りでお日様が顔を出しません。でもって、結果はnull。でも、こういうマイナスの記録もまた大事なので、諦めずまた挑戦しようと思っています。帰り道に、宮城県境に近い国見町や桑折町でもカタクリの花が咲く林道をせめてみましたが、ここも気温と晴れ間のせいで、残念な結果に終わりました。宮城の方は、けっこう記録されているので、福島北部のヒメギフをゲットしたいものです。
Commented by luehdorf at 2008-04-13 23:16 x
カトカラおんつぁん様
ご苦労様です。
エネルギッシュな探索活動、頭が下がります。
負けられないなぁ~。
帰郷の際、国見のSAで必ず休憩をとるのですが、いつも「この辺りは結構山深いよなぁ」って思ってたところです。
安全に留意なさっていただきたいと思います。
採れたら出向きます(爆)。
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