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青の閃光

 石巻の叔父の家に行ったときだった。いとこの机の上に展翅板が置いてあって、ちょっとスレたアオスジアゲハが不恰好に展翅されていた。小学校の図書館にある「横山図鑑」には「福島県辺りが北限で~」記述されていたものだから、「こいづ、どごで採ったの?」と聞くと、「その辺翔んでんだ!」と裏の上水施設を指差した。「んだって、こいづは福島辺りまでしか採れねんだよ」と言うと、「オラぁ、そんなこだ(ことは)しゃね(知らない)けっど、居だんだおなん~。福浦島(松島)でも見だど!」。
 一週間後、松島に住むもう一人の叔父の家に連れて行ってもらった。もちろん「赤い橋」で陸続きになっている福浦島に行くためである。祖母の「気ぃつけんでがすと…」という声を上の空で聞いて瑞巌寺の前まで来ると、木々の間から「青い光」が走った。「えっ?」と思って見上げると、間違いなくアオスジである。無我夢中で追いかけた。斜面を駆け上がり陽の指し込む場所に出ると、目の高さにもう1頭が翔んできた。ままよと振ったら確かな手ごたえがあった。震える手で三角紙に包んだ。
 福浦島は天国だった。遊歩道が崖の傍を通る所にタブノキの大木があって、そこに後から後からアオスジがやってくるのだから…。樹上を旋回しながら舞い降りてくるヤツを振り逃がしながらも満足できるほど捕えた。
 東京に出てきた年、毎週火曜日が学部での専門教科の日だった。京王線の幡ヶ谷駅からの道は川を暗渠にした遊歩道で、2,3メートルの高さのクスノキが植栽されていた。4月末、朝一の授業に出るために寝惚け眼で歩いていると、目の端に「青い光」が走った。あの松島での感動が甦ったが、街中でそれを見て、田舎からずっと南に来てしまっていることを悟らされた。
 7月の始め、陸上の実技の授業で代々木公園までのランニングを命じられた。授業時間の90分以内に戻ってくればいいのだという。長い距離を走るのがいやなボクは、元気よく走る仲間の後をてれてれとついて行った。公園に入ってしばらくすると、クスノキの周りを翔ぶアオスジが見えた。赤みがかった新芽の先の方で産卵をしている。そのとき本来の目的を忘れた。2メートルくらいの高さの横枝に登り、卵を探し始めた。松島のタブノキは樹高も高く、海にせり出すように生えていたから、産卵行動を見ることができても卵を見ることはできなかった。夢中で探し、きれいな卵を見つけることができた。ふと気づくと周りでは誰も走っていない。慌てて木から降りて学校を目指した。あれほど一生懸命走ったことがあったろうか。グラウンドにたどり着くと、2,3人がクールダウンしているだけで、大半は引き上げていた。昼休みに15分食い込んでいた。
 息を整えていると教官が寄って来て、「木登りをやって来いって言ったか? 単位をやらんぞ!」。バレていたようだった。
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by luehdorf | 2007-10-01 16:39 | チョウなど | Trackback | Comments(28)