エゾゼミの採集法

 高3のときであったか、Sと蔵王に出かけた。キベリタテハを狙ってのことで、ボクらが張りついたのはあまり広くない切り通しの崖の部分だった。2人が一度にネットを振れるほどはいなかったので、「一振りチェンジ」と決め、自分の番になると必死で目を凝らしたものだった。
 午後になり、峨々温泉を見下ろす道を歩いていると、辺りの木々でエゾゼミが鳴いていた。
 「なぁ、ちょっと…」と声をかけ、1本の木にそっと近づいて蹴とばした。「ギ、ギ、ギ~…」とエゾゼミが落っこってきた。「ア~オラヤ~!(宮城県北の感嘆詞)」と驚愕したSは、「なして(どうして)落づてくんの?」…。
 小学2年の夏、仙台市の郊外にある親父の実家にいた。今は仙台放送の社屋が建っている辺りが松林で、そこから聞き覚えのないセミの声が聞こえてきた。「あのセミなに?」と聞くと、「松ゼミだ。採りに行くか」。網を持ち、麦藁帽子をかぶってついて行った。あまり太くない松の木の下に行き、セミがいるのを確認した親父は、おもむろに木を蹴った。そうするとエゾゼミが「下に凸」の放物線を描いて落ちてきた。どうして?と立ちすくんでいると、「早く拾え!」と言う、慌てて草にしがみついて登ろうとしているエゾゼミを捕まえてかごに入れた。胸背部の「W」が印象的だった。どうして網なしで採れるのかを聞くと、頭を下にして止まっているから落ちてくるのだと。Sとのときはそのことを思い出し、ボク自身は初めて試みたことだった。蔵王のエゾゼミには迷惑なことをしたが、2人してずいぶんと蹴落とし、遊ばせてもらった。
 そんなSとの採集行から四半世紀以上も経ち、穂高の宿で田淵行男先生の署名入りの「山の意匠」を見せられた。その中にコエゾゼミについて記された部分があり、「木を蹴とばすと落ちてくるくせにうるさい…」と。「エッ!」と思った。親父の採集法と同じだったからである。ひょっとしてこれはエゾゼミを採るのに「ノーマル」な方法なのか。
 親父が虫採りに興味があったとは聞いていない。ただセミ採りは得意分野みたいで、松島で斜面から立ち上がった木にいきなり手を持っていき、「アッ!逃げられた」と残念そうにしたことがある。「何がいたの?」と聞くと、「松ゼミの小さいヤツ。ほら、あっちで鳴いてるだろ」と言う。聞こえてきたのはチッチゼミの声。子供時分にエゾゼミとともに松林で採ったことがあるらしいのだが、エゾよりも難しかったそうである。
 エゾゼミの蹴とばし採集法、どのようにして知ったのかはまだ聞いていない。今年傘寿を迎えたのだから、何かある前に一度きちんと聞いてなければ…。そして山に行ってエゾゼミの声を聞いたら、久し振りに蹴とばしてみよう。
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by luehdorf | 2007-07-03 22:27 | チョウなど | Trackback | Comments(0)
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